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書く苦労を想像しながら添削する ―― 先生はどんな人? 第4回 森美樹先生 書く苦労を想像しながら添削する ―― 先生はどんな人? 第4回 森美樹先生

書く苦労を想像しながら添削する
―― 先生はどんな人? 第4回 森美樹先生

2021.06.09
講評や添削のやりとりだけではわからない、講師の素顔に迫ります。今回は森美樹先生にインタビュー。女による女のためのR-18文学賞の受賞作執筆に至るまでの経緯や、執筆のアドバイスを伺いました!

何かを作る仕事に就きたかった
――先生はもともと小説家になりたかったのですか?
森先生
実は最初は漫画家になりたかったんですよ。高校2年生の頃まで描いていて、一度少女漫画雑誌に投稿して小さな賞をもらったんです。普通ならそこからさらに描いていくと思うのですが、力を出し切ったのか書けなくなってしまいました。だけど、何か作る仕事がしたかったんです。その頃、ちょうどライトノベルの全盛期で、人気だった花井愛子先生の作品を読んで、自分も書けるんじゃないかと思いました。
――そこから小説を書き始めた?
森先生
はい。ライトノベルを何冊か買って、小林深雪先生の本を読んだらハマってしまいました。先生とは趣味も合いそうだと思い、なんとファンレターを送ったんです(笑)。すると、私の手紙が面白かったらしく、先生からご自宅の住所を教えてもらって、手紙のやり取りが始まりました。それで調子にのって「小説家になりたいんです」って書いたら、「作品を送ってくれる?」と。それで作品を送ったら、なんと先生が新人賞の担当者に作品を送ってくださった。結果的に、講談社X文庫ティーンズハート大賞に応募して、3回目で佳作を受賞してデビューしました。
――その後、一度書くことをやめた時期もあるとか。
森先生
少女小説を書いていたのですが、自分の年齢と読者の年齢の溝が埋められなくなりました。苦しくて全然書けなくなってしまったんです。本屋にも行けなくなりました。それから5年くらい書けなかったのですが、40代になり体力の衰えとかいろいろ感じることがあったとき、「やっぱり書きたいな」と思いました。女による女のためのR-18文学賞は募集作品の枚数が少なかったので、久しぶりでも書けるのではないかと思って応募を決めました。
――少女小説からどうやって大人の女性に向けた作品へと方向転換をしたのですか?
森先生
過去の受賞作をざーっと読んでみたら、私が書いていた少女小説と大きな開きはなのかもしれないと思ったんです。昔から私は、作風が大人っぽいと言われていたから。とにかく今の私に書けるものを書こうと思いました。 当時すでに結婚していたのですが、夫には書いていることを内緒にしていました。受賞してから言おうと思っていたんですね。また、フルタイムで仕事をしていたので、朝4時に起きて通勤電車の中で、スマートフォンを使って書いていました。
――R-18文学賞で読者賞を獲られたときのお気持ちは?
森先生
まさか、1回で受賞できるとは思わなかった。R-18文学賞は2次選考まで発表してくれるので、今の実力がわかると思ったのも応募した理由の一つだったんです。最終選考に残った段階でやっと主人に応募したことを話して、「(小説の執筆を)ちょっと頑張ってもいいかな」と相談しました。驚いてましたね。

R-18文学賞読者賞の受賞作
「まばたきがスイッチ」を収録!

『主婦病』
(新潮社・550円+税)

さまざまな家庭に身を置く女性たちの視点から、日常が描かれた短編集。

既存の型に捉われないでほしい
――先生は公募スクールで「小説基礎」という添削講座で講師をされていますよね。添削に送られてくる作品に傾向はありますか?
森先生
R-18文学賞を目指している方が多いですね。あと、私と同じように主婦をしながら子どももいて忙しい方がわりと添削に出してくれているのかなと思います。 気になるのは、会話で表現しようとしている作品がよく見られること。会話があってもいいけれど、そればかりではなく人物の行動で表現した方がいいです。 たとえば、女優志望の主人公に何度も「私、女優になりたいの」と言わせるのではなく、映画を観るシーンを入れるとか、主人公の具体的な行動で女優になりたい気持ちを描写していく。また、単に映画を観るのではなく、女優になりたい主人公ならどんな映画を選ぶか、どんな服を着るかなど、そのシーンでの行動一つひとつで、主人公の気持ちを表現できるはずです。 こういう風に行動で表すには、登場人物を突き詰めて考えることが必要になるので、突き詰め方が足りない作品が多いのだと思います。
――「登場人物が勝手に動く」と語る小説家の方もいらっしゃいますが、先生もそういう感覚で書かれていますか?
森先生
私は人物重視で書いていくので、勝手に動く感覚はわかりますね。事前のプロットはあまり書きません。編集者に説明するために書くことはありますが。みなさんも慣れないうちは、登場人物から練りこんでいくのがいいと思います。履歴書を書くような感じがいいのではないでしょうか。
――とはいえ登場人物を考えただけでは物語を動かすのが難しいです。目的や事件がないと……。
森先生
公募スクールで公開授業をやったときも、ある生徒さんに「事件を起こさなくていいんですか?」と聞かれたことがあります。でも、生きていてそうそう事件ってないじゃないですか。たとえば登場人物が家に一人でいたら何が起こるか。ひたすら一日にあったことを描写して、そこから特筆すべきことを抜き出してみるのもいいと思いますよ。短編なら一人で部屋にこもっているだけの設定でも、書けると思う。やはり人物ありきです。 あと前半にページを使いすぎて、悪役が出てくるのが遅いとか、クライマックスの戦うシーンにページが使えないとか、後半が尻すぼみになっている作品もよく見ます。本当にこういう行動をするのかと登場人物を突き詰めて推敲し、不要な部分をカットしたほうがいい。
――限られた枚数をどう割り振るか……構成力が大事ですね。
森先生
慣れないうちは、ざっくり起承転結で分けるというのも手です。そのとき、転のクライマックスに多めにページ配分するといいです。30枚なら、起7枚、承7枚、転9枚、結7枚とか。ただ、ドラマの始まりである起の部分は早い方がいいので、内容によってはもっと短くしてもいいかと思います。
――ほかに気になる点はありますか?
森先生
表現に擬音を使う方が多いですね。犬や猫の鳴き声を、ワンワン、ニャーニャーではなく自分ならどうするかを考える。そこの表現力が大事です。
――自分に合った応募先の見つけ方を教えてください。
森先生
まずは自分が好きな作家や作品を載せている雑誌や出版社の公募に出す。また、好きな作家がデビューした賞に応募するのもいいと思います。それならモチベーションが上がります。思いつかないなら、書いた作品がエンターテインメント系か純文学系かで選んでもいいですね。
――R-18文学賞に応募するとき、気を付ける点は?
森先生
20回も続いている長い賞なので、応募側も過去作を分析していて、作品からこういうのを書けば受賞するんじゃないかという思惑が見えることもあります。また、その年によって主婦物が多かったりLGBT物が多かったりもする。でも編集部は新しい才能を探しているはずです。「何を書いたらウケますか」と聞く人がいますが、既存の型に捉われず自由に書いてほしいですね。
――添削で心がけていることはありますか?
森先生
今、私は作家デビューをして本を出した位置にいますが、昔はみなさんと同じ位置にいた。そこを忘れないようにして、みなさんと同じ視点で、書く苦労を想像しながら添削しています。あと、モチベーションを上げてもらえるよう、良いところを見つける、こうすればもっと良くなると伝えることを大切にしています。
――最新作『母親病』について教えてください。
森先生
5、6年前に母が入院した際、私と姉でお見舞いに行っていました。すると、同じ部屋には見舞客が一人もいない人もいることに気付きました。そういうとき、こまごまとしたことを頼めるニセの家族がいたら面白いんじゃないか、これから需要があるのではないかと思ったのが書くきっかけです。だから、家族や母親に焦点を当てて書いています。そして、母親も女だし、娘も女。家族には血のつながりや関係性だけで割り切れない部分がある。そういった葛藤を描きました。賛否両論ありそうな作品です。

森美樹先生最新作は6/17発売!

『母親病』
(新潮社・1,850円+税)

信じていた理想の人生が壊れたとき、本当に欲しかったものに気付く。 母と娘、しあわせを手にしたのはどちらなのか。

――最後にメッセージをお願いします。
森先生
書くことは好きだけど人に見せるのが恥ずかしい人もいると思います。でも、私の添削でなくてもいいので、誰かに見てもらい感想を聞くという第一段階を突破してほしい。すると、とても楽しい世界が待っていますよ。
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「作品をさらにおもしろくしたい」、「受賞できる作品にしたい」という
方におすすめの個別添削講座。講師は森美樹、菊池優、中田宗孝。


取材

岡田千重
フリーランス・ライター。広告物の企画・ライティングの経験を経て、2003年より映像系クリエイターにインaタビューをするようになる。現在は月刊公募ガイドでも作家のインタビューを手掛ける。2012年、1000字シナリオコンテスト最優秀賞受賞。2013年度より、シナリオ・センターにて講師およびシナリオ添削を担当。公募スクールではライティングやエッセイの講座を担当。
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